労働基準法判例
横浜南労基署長(旭紙業)事件
労働者とは。
事件概要
Xさんは事業所Y社と請負契約を結び、Xさんの自己所有するトラックを持ち込んで運送業務に従事していた。
その業務中、Xさんは事業所Y社の倉庫内で足を滑らせて転倒して負傷してしまった。
そこで、Xさんは労働災害補償保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を労働基準監督署に請求。
しかし、労働基準監督署はXさんが労働災害補償保険法における労働者に該当しないとして不支給処分とした。
Xさんがこれを不服として不支給処分の取消を求めて訴えた事件。
- 労災保険法の適用を受ける労働者について、同法は定義規定を置いていないが、(中略)労基法の規定する災害補償につき、労災保険法に基づいて給付が行われるときは、使用者は補償の責めを免れると規定しているところからすると、労災保険法は、労基法第八章「災害補償」に定める使用者の労働者に対する災害補償責任を填補する責任保険(保険料は使用者が全額負担)に関する法律として制定されているものであって、労災保険法にいう労働者は、労基法にいう労働者と同一であると解するのが相当である。
- 労働者とは、要するに、使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者から労務に対する対償としての報酬が支払われる者をいうのであって、一般に使用従属性を有する者あるいは使用従属関係にある者と呼称されている。
- 使用従属関係の存否は、業務従事の指示等に対する諾否の自由が無いかどうか、業務の内容及び遂行方法につき具体的指示を受けているか否か、勤務場所及び勤務時間が指定され管理されているか否か、労務提供につき代替性が無いかどうか、報酬が一定時間労務を提供したことに対する対価とみられるかどうか、更には、高価な業務用器材を所有しそれにつき危険を負担しているといった事情が無いかどうか、専属性が強く当該企業に従属しているといえるか否か、報酬につき給与所得として源泉徴収がされているか否か、労働保険、厚生年金保険、健康保険の適用対象となっているか否か、など諸般の事情を総合考慮して判断されなくてはならない。
(以上、東京高裁判決)
- Y社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、XがY社の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。
- そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。
- したがって、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しない。
この裁判は、上告棄却と最高裁は東京高裁の判決を支持する決定でした。
東京高裁の判決文では「労働者」の概念が労基と労災では同一であることとその理由、「労働者」とみなされる場合の条件が詳細に述べられました。
労基と労災の関係も含めて、非常に重要な考え方だと思いましたので、今回は併せて記載してみました。
その上で、最高裁でも具体的かつ簡潔に使用従属性について、業務の指示をしていただけでは使用従属性を認めず、そこに一定の拘束性が必要であること。
加えて、報酬の支払における公租公課の負担など、労基法上の「労働者」とみなされるための基準を示しました。
働き方が多種多様な現在です。
労基法や労災法の適用については迷う場面も出てくるでしょうが、判断をつけるためにも重要な判例ですので、しっかり把握しておきましょう。