労働基準法判例
日本ケミカル事件
固定残業代に該当する手当の条件とは。
事件概要
Xさんは調剤薬局である事業所Y社で勤務する薬剤師であった。
雇用契約書でXさんの基本給は46万1500円、業務手当が10万1000円とされていた。
業務手当については採用条件確認書には「業務手当101、000 みなし時間外手当」、「時間外勤務手当の取り扱い年収に見込み残業代を含む」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があった。
Xさんは退職するに当たって、業務手当の名目で支給されていた時間外労働に対する固定残業代が無効等を主張。
事業所Y社に時間外労働及び深夜残業の割増賃金とこれに対する遅延損害金、付加金の支払を求めた事件。
- 使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当てを支払うことにより、割増賃金の全部または一部を支払うことが出来る。
- 雇用契約においてある手当てが時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容ほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。
- 雇用契約書、採用条件確認書、被告の賃金規定において、業務手当が時間外労働の対価として支払われる旨が記載されている。また、業務手当が時想定する残業時間とXの実際の時間外労働等の状況は大きくかい離するものではない。よって、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められるから、上記業務手当の支払いをもって、時間外労働等に対する賃金の支払いとみることができる。
この裁判では、一審で被告(Y社)勝訴、上告審で原告(Xさん)勝訴でした。
上告審で定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、
- 定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっている。
- これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されている。
- 基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない。
場合に限られる、というものでした。
これを最高裁では
「原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない」
として会社側の勝訴としました。
つまり、そんな細かい事言わなくても、労働契約等で確認できて実態とも合っていれば時間外手当ですよ、って事です。
ただ、この判決は契約書等で定額残業代を記載していればそれで時間外手当とみなされる、としているわけでありません。
契約内容の他、具体的事案に応じる必要も示していることから、様々な状況に応じて総合的に判断します、って事ですね。
尚、令和元年にこの判例を基にした問題が出されました。
設問(下記過去問参照)を見てみると、上告審の内容が記載されています。
この判例を知っていれば、これが誤りであると判断できるでしょうが、判例を知らない場合「正しい」と判断してもおかしくない出題でした。
だって、あらゆる法律に詳しい高等裁判官が出した判決ですから、内容から正誤は導き出せませんよ。
法律を仕事にするつもりがある以上、最高裁判例はきちんと押さえておけという出題者からのメッセージなんでしょうけど、これは難問というより意地悪な出題だと感じました。