労働基準法判例
専修大学事件
解雇制限期間と打ち切り報償の関係は。
事件概要
事業所Yに勤務する労働者Xは私傷病により欠勤を繰り返していました。一時はXはYを退職しましたが、退職後、Xはこの疾病が業務上のものと労災の認定を受けて療養補償給付及び休業補償給付受給を開始。これにあわせてYはXの退職を取り消しました。それからXは3年間の欠勤し、Yは更に2年間の業務災害休職扱いとしました。その2年後、YはXが復職することが不可能と判断し、Xに対して平均賃金1200日分を打切り補償として支払い、Xを解雇しました。これに対してXは、解雇は法19条に反して無効であるとして訴えた事例。
- 労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労基法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である。
- 使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、労基法19条ただし書きの適用の有無につき取扱いを異にすべきものとは言い難い。
- したがって、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、使用者は、当該労働者につき、打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書きの適用を受けることができるものと解するのが相当である。
労働基準法(以後「労基法」)の災害補償と労働災害保険法(以後「労災法」)の関係に着目です。
労災法の保険給付は労基法で規定する事業所の義務たる災害補償に代わるものとして支給され、この支給が行われた場合、使用者は支給された範囲でその義務を免れます。
つまり、労働基準法に規定する使用者の義務である災害補償は労災の支給があれば「実質的に行われている」訳ですね。
という事は、3年間労災法の療養補償給付をうけている間は使用者は休業補償を行ったのと同一視出来ますよね。この事例のような場合、Xは打切り補償の条件の一つである「第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者」であり「療養開始後三年を経過」したという事になるのです。
ですから、使用者は打切り補償のもう一つの条件である1200日分の打切り補償を支払えばXに対する解雇制限は解かれます。したがって、この事例についてはなんら違法性がないという事になります。
単一の法律だけではなく、他の法律との関係性に注目したいですね。