労働基準法判例
弘前電報電話局事件
事業所の時季変更権行使の条件は。
事件概要
事業所Yに勤務する労働者Xは月に17日勤務と定められていました。YはXから年次有給休暇の取得申請があったとき、Xが反対集会に参加して違法行為を行うと考え、時季変更権を行使してXの申請日には年休を取得させませんでしたが、Xは年休申請日に欠勤しました。そこでYはXを戒告処分とし、欠勤分の賃金を支払いませんでした。これを不服としてXが戒告処分の無効と賃金支払いを求めて訴えた事例。
- 労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあり、同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。
- 使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。
- 年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものである。
年次有給休暇についての重要な判例ですね。
原審では「合理的な理由がある場合は勤務割を変更しないことができ、その結果として事業の正常な運営を妨げられることを理由に時季変更権を行使することができる」としていました。
しかし、「特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には」代替要員などを確保する事の困難性に理解を示しながらも、そうであれば尚更、勤務割りの変更について努力すれば代替要員を確保できるはずであるとしたわけです。
つまり、年次有給休暇の法の趣旨は「使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請している(判決文より)」なわけなので、法の文言を捉えて権利を行使することは権利の濫用ですよ、ってことですね。