労働基準法判例
阪急トラベルサポート事件
働いたとみなされる時間とは。
事件概要
労働者Xさんは派遣社員として派遣会社Y社に在籍、旅行会社の添乗員として勤務していました。
この時、Y社はツアー中の勤務が「労働時間を算定し難い」として事業場外みなし労働時間が適用。
一日3時間分の残業代を一律に支給していました。
これに対して、Xが添乗員業務がみなし労働に該当しないとして未払の時間外労働手当と付加金の支払いを請求した事例。
- 事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督の及ばない事業場外労働については使用者の労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定に支障が生ずるという問題に対処し、労基法の労働時間規制における実績原則の下で、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な算定方法を定めるものであり、その限りで労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものということができる。
- 就労場所が事業場外であっても、原則として、従業員の労働時間を把握する義務があるのであり、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合をいうものである。
- 添乗員は、諸事情から社会通念上、添乗業務は指示書によるY社の指揮監督の下で行われるもので、控訴人は、Y社の指示による行程を記録した添乗日報の記載を補充的に利用して、添乗員の労働時間を算定することが可能であると認められ、添乗業務は、その労働時間を算定し難い業務には当たらないと解するのが相当である。
この判例で意識してほしい事は、法適用における定義付の重要性です。
学習する上で、また知らない判例を解く上で、また実務を行う上でも重要です。
論争となったのはXさんの働き方が「みなし労働」に該当するか否かです。
では、「みなし労働」は法でどのように定義づけられているか。
みなし労働はもちろん法38条の「裁量労働時間制」のことを指します。
裁量労働時間制はいくつか種類がありますが、Y社はXさんの働き方は「事業場外」の裁量労働時間制に該当すると主張したわけです。
そこで、事業場外裁量労働時間制を細かく見てみると以下のようなことが条件とされています。
- 事業場外で業務に従事した場合。
- 労働時間を算定し難いとき。
このどちらかに該当した場合ではなく、「1.事業場外で業務に従事した場合」に「2.労働時間を算定し難いとき。」に事業場外のみなし労働時間制が適用されるという事です。
「1.事業場外・・・」というのは明確ですよね。
問題は、「2.労働時間を算定し難いとき。」がどのような場合に当てはまるかです。
「労働時間を算定」+「し難いとき」です。
判例では「労働時間の算定」について、「原則として(使用者には)、従業員の
労働時間を把握する義務がある」と明言しています。
つまり、「労働時間の算定」の定義には使用者の把握義務が含まれるという事です。
この義務を果たそうにも事業場外では「使用者の指揮監督が及ば」ない場合がありますよね。
「使用者の労働時間の把握が困難」となるので「実労働の算定に支障が生ずる」わけです。
まさしく「(算定)し難いとき」です。
では、「し難いとき」とは具体的にどのような場合でしょうか。
それは「就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合」とまぁ小難しい言葉が並びますが、労働時間の算定が本当に無理である場合と定義づけられているのです。
このケースでは添乗員業務は「社会通念上」でも会社の指示書及び行程に従った会社の監督下での業務であるし、日報による補充で労働時間の算定は可能であることから「事業場外」ではあるものの「労働時間を算定」する義務が果たせないほど「(算定)し難いとき」には当たらないというわけです。
関連過去問は用語のみを問うものですが、用語の確認で終わらず応用力を養うために非常に有益な判例だと思います。