試用期間についての重要は判例です。
この事例では、本採用前に本採用を前提とした期間の定めのある契約での就業でした。
裁判所はこの契約期間を試用期間と判断しました。
判旨にある「存続期間」とは「有期契約における契約期間」ということです。
つまり、裁判所は期間満了後の正規雇用を前提とした有期契約は、特別な場合を除いて正規雇用の使用期間ですよ、ってことです。
では、特別な場合とはどういう場合かと言うと「期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなど」の場合です。
さらに、試用期間を「解約権留保付雇用契約」と定義づけて、試用期間の解雇権の行使についても「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許される」としました。
労働法の勉強としては概要理解と用語の確認等だけで、これ以上の理解は不要だと思いますが、さらに深く解説します。
まず、この事例では正規雇用については書面ではなく口頭であり、有期雇用は書面で交わされています。
これって、どうなの?口頭で言われてはいるけど結局契約書を交わしているから契約書の方が優先するのでは?って思いませんでしたか?
実は、法律の契約関係では契約方法は問わないのです。
ですから、原則としては口約束でも契約は成立しているのです。
契約書を交わすのは、契約の証拠を残すためと理解すればいいです。
XさんとY社は口頭で将来にわたる契約を約束していますから、この時点で無期雇用契約が交わされていることになります。
では、その後の書面での有期雇用についてはどうなるのでしょうか?
内容の違う契約は前と後ではどちらが有効なのでしょうか?
答えは一般的には後です。
前の契約の修正を後で行ったとみるため、一般的には後の方が有効とみられるのです。
色々なケースが考えられるので、あくまでも一般的にはですけど。
だとしたら、証拠もあるし後の書面での契約の方が有効だと考えられますよね。
では、裁判所の判断の根拠はどういうものでしょうか。
これはXさんの立場になってみると理解できるのではないでしょうか。
無期雇用で採用するからね、まずは有期雇用だけどここにサインして、と言われたら立場の弱い求職者としてはサインしてしまいませんか?
有期雇用とはいっても、ずっと頑張ってくれって言われたし、期間が終わったら正社員だろうなぁ、と思いますよね。
でも、契約書にはサインしているという行動は取っていますよね。
つまり気持ちとやっていることが裏腹です。
このような状態は法律で定義づけられています。
法律用語では気持ちと裏腹な意思表示を「心裡留保」といいます。
心裡留保についての詳しいことは民法の法理論にありますからこれ以上は解説しないので詳しく知りたい方はググってみてください。
では、法律でどのようになっているかというと、民法93条に「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」とされています。
たとえ気持ちと違った契約であっても有効だということです。(条件あり)
あれれ?判旨と違いますよね。
判旨では無効としていますよね。
どういうことでしょうか。
やはり、民法の特別法たる労働基準法という法理にその理由がありそうです。
民法では契約の当事者は対等の立場にありますが、労働関係は法2条でわざわざ対等の立場と宣言しなければいけない程その立場に差があるのが現実です。
一般的には使用者の方が強い立場にありますよね。
労働基準法の法理はここにあるのです。
立場の違いに着目して、対等な立場となるように条文が定められているわけです。
裁判では現実の立場の差に着目したのか、判旨で「期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立している」場合であれば有期雇用として成立する、そうでなければその期間は試用期間ですよ、としたのです。
このケースでは、Xさんの考えていたこととY社の考えていたことは違ったので「明確な合意が当事者間に成立」していなかったという事です。
暗黙の了解的な「黙示」では足りないとしたわけですね。
ここまで掘り下げて試験対策をする必要はないと思いますが、判例を読み解く上で理解が深まりますから参考にしてください。