労働基準法判例
東朋学園事件
勤務と賞与の関係は。
事件概要
労働者Xは事業所Yに事務員として就業していた。Xは妊娠出産し、労働契約に基づいた8週間の産後休暇と、その後の育児による一日当たり15分の時間短縮を受けて勤務した。
また、Yには賞与支払いの条件として賞与期間の90%出勤した者が賞与支払いの対象とするという90%規定が主業規則に規定されていた。
これに基づき、YはXに対しては産後休業等により90%に達しないとして2回分の賞与を支払わなかった。
これに対してXが産後休暇等を欠勤として算入することは法の趣旨に反するとして賞与の支払いを求めて訴えた事例。
- 産前産後休業を取得し、又は勤務時間の短縮措置を受けた労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しておらず、当該不就労期間を出勤として取り扱うかどうかは原則として労使間の合意にゆだねられているというべきである。
- 従業員の出勤率の低下防止等の観点から、出勤率の低い者につきある種の経済的利益を得られないこととする措置ないし制度を設けることも、一応の経済的合理性を有する。
- しかし、90%条項のうち、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数に産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による短縮時間分を含めないものとしている部分は、法により認められた権利等の行使を抑制し、ひいては労働基準法等がそれらの権利等を保障した趣旨を実質的に失わせるものというべきであるから、公序良俗に反し無効である。
まずは法65条の趣旨です。
法は、産後休業について休業について保証していますが、その期間を有給にすることまで求めていません。したがって、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権は有していないという事です。
また、事業所にとって労働力の安定確保は経営において重要課題ですから、90%条項自体も経済的合理性から鑑みて肯定されるとしています。
この2点を踏まえた上で、この事例については公序良俗に反して無効としています。
ん?なんで?と思った方はいい視点を持ってますね。
なぜなら、判旨の前半でこの規定全体が法律の趣旨に合っていると言っているわけです。それなのに、後段で「でも無効ですよ」と示しているのです。
判決ですから、法律関係が問題になるのに、違法じゃないけど無効としているのっておかしいと思いませんか?
そこで重要になるのが、無効理由として挙げられている「公序良俗」です。公序良俗とは公の秩序又は善良の風俗の略で、法律の適用の内容が公序良俗に反している場合、たとえ適法であっても無効となるのです。これは、民法90条に規定されています。
つまり、この判旨は適法な規定ではあるけど、産後休業や育児時間が結果的に取りにくい状況を招く規定なので公序良俗に反する規定である、したがってこの規定は無効なので賞与を払いなさいというわけです。
なお、公序良俗と似たような考え方で信義則というものもあります。信義則とは信義誠実の原則の略で民法1条2項に根拠条文があります。信義則は公序良俗と同じで信義則に反する法の適用は無効となります。
この二つの違いは、公序良俗が秩序を重視しているのに対して、信義則は契約者同士の信頼を重視しているという点です。
平成22年の選択式ではこの判例をもとに出題されており、選択項目に「公序に反するもの」と「信義に反するもの」が挙がっていることから、社労士でもこの二つの違いを理解することを求めているのですかね。
判例を熟知しておけば、容易に解けますが・・・・。
行政書士や司法書士(もちろん司法試験も)と違い、社労士は法理論が問われることは少ないですが、労働基準法は民法の特別法ですから、法理論の基礎を理解しておくと過去問の理解が深まります。その為に非常に重要は判例です。