労働基準法判例
関西医科大学事件
労働者とは。
事件概要
XさんはY医科大学卒業後、Y大学に設置される大学病院で研修医として研修を開始した。
研修医としてXさんは入院患者への点滴・採血、手術の立会いや指導医に付き添っての病棟診察補助などを担当。
研修時間は午前7時30分~午後10時という1日14時間半にも及ぶ長時間であった。
この間Xさんが受け取った手当は、数万円の奨学金と1万円の夜勤手当を受け取るのみだった。
Xさんが研修開始して2カ月半を過ぎて、Xさんは突然死亡した。
死因は過労を原因とする心筋梗塞であった。
Xさんの遺族らは、Xさんが受け取っていた奨学金は最低賃金を下回ることからY大学病院に対して未払い分の賃金を請求。
また、Xさんの研修は土日の休みもなく、1か月の勤務時間が300時間を超えるなどしたことから、安全配慮違反による死亡であるとして損害賠償を請求した事例。
- XとYには指揮監督関係が認められること(中略)等、全体としてみた場合、他人の指揮命令下に医療に関する各種業務に従事しているということができるので、Xは「労働者」に該当すると認められる。
- Xは、Yの指導監督の下、Y病院において研修していたのであるから、そのような特殊な社会的接触の関係に入った一方当事者であるYは、他方当事者であるXに対して、信義則上、Xが研修によってその生命・身体を害さないように配慮する義務(安全配慮義務)を負っているというべきである。
- 臨床研修プログラムを終えた後も、他の同僚研修医や先輩研修医と同様に、被告病院又は被告の指示のもとその関連病院で医師として勤務することが予定されていたと認められるから、研修医の研修は、その内容が高度に専門的であるため長期にわたってはいるが、一般企業でいうところの新人研修的な性格を有しているということができる。
この判例では、労働基準法における「労働者」の定義を示しています。
裁判でY大学は「研修は教育だから研修医は労働者ではない」と主張していました。
ですから、賃金ではなくて「奨学金」名目で手当てを支給していたわけです。
ですが、判決では「研修医と被告病院の間には、教育的側面があることを加味しても、労働契約と同様な指揮命令関係を認めることができる」と判示。
研修医を労働者とすべきことを明示しました。
この事例のように研修としての研修プログラムによる勤務であっても、そこに指揮監督下に置かれるような使用従属関係が認められた場合は法に規定する「労働者」であるという事です。
なお判示ではさらに細かく、
- 仕事の依頼、業務従事への指示等に関する諾否の自由の有無
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 場所的・時間的拘束性の有無
- 労務提供の代替性の有無
- 業務用器具の負担関係
- 報酬が労働自体の対償的性格を有するか否か
- 専属性の程度-他の業務への従事が制度上若しくは事実上制約されているか
- 報酬につき給与所得として源泉徴収を行っているか等
により使用従属関係か否かの判断基準として挙げています。
この事例ではすべてがこれに当たるとし、XさんとY大学病院には使用従属関係があり、XさんはY大学病院の指揮監督下に置かれる労働者としました。
同時に使用従属関係が認められる以上、Y大学病院にはXさんに対する安全配慮義務も「信義則上、負っている」としたことからXさん遺族らに対する損害賠償が命じられることとなりました。