この判例の結果については学説上の見解も分かれていますので、完全理解より労働基準法の勉強として要点を押さえることが重要だと思います。
要点としては、判旨「2」にあるように法の趣旨に反する規定は「無効」であるという事です。
「無効」というのは法律用語として「最初からなかった事」という意味です。
似たような言葉に「取消」というのがありますが、これは取り消された時点から効果がなくなることを指します。
過去に遡って効力を失うのが「無効」で、未来に向かって効力を失うのが「取消」というわけです。
つまり、「公職就任による懲戒解雇」という就業規則は法の趣旨に反するので無かったと同じですよ、って事ですね。
さらに細かく見て行きましょう。
この判例で注目して欲しいのが判旨「3」の「普通解雇に附するは格別、同条項を適用して従業員を懲戒解雇に附することは、許されないもの」という部分です。
普通解雇だったら別にいいけど懲戒解雇はだめです、ってことですよね。
法で保証されている公の職務の遂行でも普通解雇だったらいいというのはどういうわけなのでしょう。
詳しく見てみましょう。
判例では、まず懲戒解雇について説明しています。
その内容は普通解雇と違って懲戒解雇は、「企業秩序の違反に対し」課される制裁罰であるとしています。
判例で例示しているように、使用者には会社秩序を維持するため、規則に違反した者に減給や降職など制裁を科すことは認められています。
ただし、どのような規定でも認められるというわけではありません。
このケースで問題となっている「公の職務」の執行は、法で保証している公民権の行使たる行為です。
そのことを理由に制裁罰を科すような規定は会社秩序を乱す行為とは言え「無効」としたわけですね。
「違法」でもではなく「無効」です。
どういう事かと言うと、就業規則で法に反する規定を定めることはかまわない。
ただし、法に反しているので過去に遡って効果はない・・・つまり定めていないと同じ事ってことです。
では、「普通解雇に附するは格別~」とはどういうことでしょうか。
判旨「3」を見ると「公職に就任することが会社業務の逐行を著しく阻害する虞れ(おそれ)のある場合において」と、処分の前提を置いています。
労働基準法及び民法の精神を基に考えてみましょう。
労使関係は「使う」「使われる」関係にあると言っても法2条にあるように「対等」な立場であるという事です。
つまり対等な関係での雇用契約が労使関係です。
雇用契約を民法では「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」としています。
今回の場合「公職に就任すること」によって民法に規定する「労働に従事することを約」すること、つまり「会社業務の逐行」が「著しく阻害する虞れ(おそれ)」があることになる。
従って、雇用契約の解消にあたる普通解雇は許される。
ただし、公の職務の遂行は法7条で保証されているので公職就任を理由に懲戒解雇とする就業規則は無効であるし、この規定を適用して懲戒解雇という制裁罰を課すことは許されませんよ、って事です。
公職就任による普通解雇が許されるという点が学説上意見の分かれている判例です。
やはり、労働法の勉強として「法に反する規定」→「無効となる」という点をしっかり押さえるべき判例だと思います。