労働基準法判例
高知県観光事件
時間外労働・深夜労働の割増賃金とは。
事件概要
労働者Xさんはタクシー会社Y社のタクシー運転手として勤務していた。
Y社での賃金は完全歩合制であり、残業及び深夜勤務によっても賃金に割増されていなかった。
そこで、XさんはY社に時間外と深夜勤務の割増部分の支払いを請求。
しかし、Y社は歩合割増部分に時間外・深夜勤務の割増が含まれているとして支払いを拒否していた。
そのため、Xさんは時間外・深夜労働の部分の割増部分とこれに対する付加金の支払いを求めて訴えた事例。
- Xらが労働基準法37条の時間外及び深夜の労働を行った場合にも、これ以外の賃金は支給されておらず、歩合給のうちで、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできない。
- 支給された前記の歩合給の額が、時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきである。
- したがって、会社は従業員に、従業員が行った時間外労働及び深夜労働について、労働基準法第37条及び労働基準法施行規則第19条第1項第6号の規定に従って計算した金額の割増賃金を支払う義務がある。
法37条の時間外労働手当の設定について、考え方が明確になった判例です。
この判例において使用者側は、完全歩合だから長時間働けば歩合につながる実績も上がる、そうすれば労働者はそれだけ多くの割増しの賃金を支払っているので問題ないと主張したわけです。
業務もタクシー運転手なので、深夜の方が多くのお客さんが利用するでしょうから、深夜割増を自動的に支払っていると解釈していたのでしょう。
つまり、払うものは払っているでしょ、ってことですね。
しかし判例ではそれは違うと判断されました。
その理由は、時間外労働手当は法37条で時間と時間帯によって規定されているからです。
Y社の方法でも確かに労働者は多くの賃金が得られるでしょう。
しかし、それでは法37条で使用者に義務付けている割増賃金の支払いを行ったかどうか分かりません。
それは「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別すること」が出来ないからです。
法37条の趣旨は、法定労働時間を超えて働かせた場合に時間外手当というペナルティを課し、使用者に「時間外労働等を抑制」させて法定労働時間の「規定を遵守」させるようにすることです。
なぜなら、長時間労働や深夜労働は労働者の身体的負担が大きいからです。
使用者の都合で労働者に大きな負担を掛けることがないよう、法で労働時間に制限を設けているのです。
その法定労働時間を例外的に超えて(または特別な時間帯に)仕事をさせる訳だから、同じ支払うにしても法的に義務付けられている方法で支払わなければならいけませんよ、ってことですね。
Y社の様な賃金制度だと使用者がどの程度のペナルティを課せられているか、労働者もどの程度の負担がかかっているのかが把握できませんからね。
また、
付加金についても支払いを命じました。付加金は支払い義務を果たしていない時の制裁金ですから、この事例では支払い義務のある割増部分と共に付加金の支払が命じられたという事です。