労働基準法判例
大和銀行事件
就業規則が効力を有するためには。
事件概要
事業所Yは10月から3月までを支給対象期間とし、この期間の査定に基づき年に2回・12月と6月の中旬に賞与を支払うことを慣行としていた。Yの労働組合はこの慣行の明文化を求め、Yはこれに従い就業規則を改定し、全従業員に周知した。改定された就業規則には支給要件として賞与支給日にYに在籍していることも記載されていた。就業規則改定・周知の後の5月31日、労働者XはYを退社した。Yは賞与支給日に在籍していなかったXに対しては、就業規則の規定に従い賞与を支給しなかった。これに対しXは、支給対象期間に在籍していたことを理由に、Yに対して賞与の支給を求めて訴えた事例。
- 就業規則を改訂する前から、年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて、その支給日に在籍している者に対してのみ、決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在していた。
- 支給日に在籍していることを要件として定めた就業規則の改訂は、労働組合の要請によって慣行を明文化したものであって、その内容については合理性がある。
Yには賞与支給についての慣行がありましたが、明文化はされていませんでした。もしXが明文化前に辞めていたらどうなったでしょうか?民法92条においては民法の規定内容と反する不合理でない慣習があった場合慣習の方が優先される(要約)と定められています。この規定を根拠として、賞与支払い時効が明文化されていなかったとしてもXの請求は退けられた可能性はあります。しかし、民法の特別法にあたるの労働基準法91条で就業規則の周知義務を規定しており、義務を果たしていなければ拘束力を生じないとされています。一般法の民法より特別法である労働基準法が優先されますから、法91条を理由にXの請求は認められた可能性もあります。Yは就業規則変更による明文化と周知の両方をXの退職前に実施していますから、Xへの賞与不支給判決はこれだけで妥当と考えられるかというとそうではありません。判旨では「合理性がある」としています。つまり、もし合理性がなければ就業規則作成・変更及び周知がなされていたとしても効力はないという事です。民法の重要な考え方の一つに「信義則」があります。これは、「信義誠実の原則」のことで、法の規定通りであっても信義・誠実に反してはならない、という事です。民法と別の法律とはいっても労働基準法は民法の特別法という位置づけなので、この考え方が基礎となります。つまり、法91条通りの周知義務が果たされていてもその内容が「合理性がある」場合に初めて就業規則が効力を有するとしているわけです。
民法と労働基準法、慣行との関係。そして、法適用の考え方を学ぶのに良いケースだと言えます。