労働基準法判例
大星ビル管理事件
仮眠時間は労働時間か。
事件概要
労働者Xさん達はビル管理会社を運営する事業所Y社に勤務しており、月に数回24時間勤務に就いていた。
24時間勤務では、飲酒や外出は禁じられていた。
その間は7~8時間の仮眠時間を与えられ、その間に電話や警報が鳴った場合にのみ対処するよう命じられていた。
Y社では仮眠時間は所定労働時間に含めておらず、賃金については泊まり勤務手当を支給。
突発的な対応が必要だった場合のみ、その時間の賃金と時間外手当・深夜手当を支給していた。
これに対しXらは仮眠時間とは言っても労働時間に該当するとして、その間の仮眠時間に対して、時間外勤務手当及び深夜就業手当の支払いを求めて訴えた事例。
- 労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。
- 従業員が作業に従事していないというだけでは、会社の指揮命令下に置かれていないものと評価することはできず、従業員が会社の指揮命令下に置かれていないものと評価するためには、その時間に従業員が労働から離れることを保障されていなければならない。
- したがって、作業に従事していない仮眠時間であっても、労働から離れることが保障されていない場合は、労働基準法上の労働時間に当たると言うべきである。
- 労基法32条の2の定める1か月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準ずるものにより、1か月以内の一定の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において1週の法定労働時間を、又は特定された日において1日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要があるものと解される。
- 労働協約又は改正就業規則において、業務の都合により4週間ないし1か月を通じ、1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある旨が定められていることをもって、Xさんらについて変形労働時間制が適用されていたとするが、そのような定めをもって直ちに変形労働時間制を適用する要件が具備されているものと解することは相当ではない。
なんとなく、仕事をしていなければ労働時間には当たらないような気がしますよね。
しかし、法の適用には「なんとなく」は通用せず、明確な定義づけが必要です。
この判例では法の上での労働時間の定義が明確にされました。
それは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」です。
実作業の有無は判断材料とはならないということです。
また同時に、労働時間を否定するためには「労働から離れることを保障されていなければならない」ともしています。
しかし、このケースでの仮眠時間は「
宿直」にあたるのではないかと思いませんか?
それでも仮眠時間を時間外手当や深夜就業手当を認めるというのは労働者に偏った判決と感じませんか?
なぜ、仮眠時間が「宿直」とされなかったのか。
それは、この業務を指揮命令する際のY社の不備があったからです。
確かにこの業務は電話や警報が鳴ったときの対応のみを義務としているので宿直業務に該当する可能性はあります。
ただし、宿直という法41条の「監視又は断続的労働に従事する者」を適用するには「使用者が行政官庁の許可を受け」ることが必要となります。
このケースでは賃金支払いを争ったぐらいですから、もちろん許可申請を行っていませんでした。
したがって、この労働時間は通常の労働時間とみなされ、時間外勤務手当と深夜就業手当を支払うべきとされたわけです。
「労働時間」の定義と、特例を適用する場合には法規定に準ずる必要性を示した重要判例と言えます。
特例適用の必要項目は社労士試験でも重要項目ですし、過去問でもよく問われていますので、しっかり押さえておきましょう。
また、この判例では変形労働時間制の定義と適用の考え方も判示しました。
この考え方も是非、しっかりと押さえておいてください。