労働基準法判例
細谷服装事件
解雇予告なしに解雇通知をした場合、解雇の効力はいつ発生するのか。また、支払義務違反があったが既に支払いが終了している事例に対する義務違反を理由に付加金請求できるか。
事件概要
事業所Y社が8月に労働者Xさんを解雇した。
解雇に当たって、Y社は解雇予告期間をおかず、解雇予告手当の支給も行わなかった。
これに対しXさんは8月分の賃金と解雇予告手当の支払いを求めて提訴。
Y社は翌々年3月に8月分の賃金と解雇予告手当を支給した。
Xさんは支給のあった3月までは従業員の地位があったとして、この間の賃金と解雇予告手当と同額の付加金の請求を行った事例。
- 会社が、労働基準法第20条で定められている解雇予告の期間を置かないで、又は、解雇予告手当の支払いをしないで従業員に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じない。
- 会社が即時解雇に固執しなければ、解雇の通知をして30日の期間が経過したとき、又は、解雇の通知をした後に定められた解雇予告手当を支払ったとき、のいずれかの日から解雇の効力が生じる。
- 労働基準法第114条の付加金の支払義務は、会社が解雇予告手当を支払わなかった場合に、当然に発生するものではなく、従業員の請求により裁判所がその支払を命じることによって、初めて発生するものである。
- 会社に労働基準法第20条の違反があったとしても、既に解雇予告手当に相当する金額の支払を完了し、会社の義務違反の状況が消滅した後においては、従業員は同条による付加金を請求することができない。
この判例での論点は2点です。
1点目は解雇の効力の発生について。
2点目は付加金の支払い義務の発生について、です。
1点目について、「解雇の通知をして30日の期間が経過したとき、又は、解雇の通知をした後に定められた解雇予告手当を支払ったとき、のいずれかの日から解雇の効力が生じる。」としました。
その前提は「即時解雇に固執しなければ」です。
つまり、解雇予告期間および解雇予告手当は解雇自体の効力発生要件ではなくて即時解雇の発生要件という事です。
もちろん、解雇予告の義務違反であれば「6ヶ月以下の懲役、又は、30万円以下の罰金」が課されます。
解雇理由が社会通念上相当でなければ無効ともなります。
ですが、解雇予告期間・解雇予告手当がなくとも解雇の効力はその期間が経過した時には発生するという事です。
2点目について、付加金の要件を請求権者の請求による裁判所の支払い命令と明示しました。
加えて、付加金の支払い義務は「当然に発生するのもの」ではなく要件が必要な事。
付加金は会社の義務違反により請求権が発生するので会社の義務違反が解消されていれば請求が出来ない事も示しました。
効力や請求権、支払い義務などの要件は試験で問われやすい内容ですし、法的な理解を深める意味でも大変重要な判例です。