労働基準法判例
秋北バス事件
就業規則の変更された内容に同意していない場合、労働者は従う義務があるか。
事件概要
主任以上は定年を設けていなかった事業所Yが就業規則変更により55歳定年を設けたため、対象になった労働者Xは解雇通知を受けた。この就業規則の変更は無効としてXがYを訴えた事例。
- 元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従つて、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至つている。
- 新たな就業規則の作成又は変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが・・・。
- 労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいつて、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべき。
- 本件就業規則条項は、同規則55条の規定に徴すれば、停年に達したことによつて自動的に退職するいわゆる「停年退職」制を定めたものではなく、停年に達したことを理由として解雇するいわゆる「停年解雇」制を定めたものと解すべきであり、同条項に基づく解雇は、労働基準法20条所定の解雇の制限に服すべきものである。
労働契約は契約である以上、基礎的には民法の規定が適用されます。民法92条においては民法の規定内容と反する不合理でない慣習があった場合慣習の方が優先される(要約)と定められています。「1.」についてはこの規定を根拠に慣習としての就業規則が社会的規範のみならず法的規範を有しているという事です。とはいっても、就業規則の作成・変更主体は使用者であることから労働者に対して一方的に不利益な内容とすることは許されないと「2.」でしつつ、その内容が合理的であれば「1.」で法規範性を有するとしているので個々の労働者が同意しないという理由で適用を拒否することはできないとしています。同時にこのケースではそもそも定年のなかった事業所が規則を設けたための解雇通知であることから「定年解雇」にあたるとして、定年による雇止めであっても「解雇」にあたるとしました。
この判例では就業規則の位置づけと、定年による雇止めが、定年に達したことにより自動的に退職となる「定年退職」と、定年に達したことにより解雇となる「定年解雇」の2種類があり、後者は法20条の適用があることを示した重要な判例と言えます。