労働基準法判例
エッソ石油事件
チェック・オフ協定(労働組合費の賃金控除協定)の締結の効力は?
事件概要
事業所Y社には労働組合費を給与から控除する「チェック・オフ協定」を締結する労働組合があった。
この労働組合に加入していた労働者Xさんは組合の執行部ともめ、組合から脱退し別組合を結成した。
しかし、Y社はなおXさんのチェック・オフを継続して、協定締結組合に組合費を支払っていた。
XさんはY社に対して控除した組合費を自分が所属する組合に渡すように依頼したが、Y社は変更をしなかった。
これを不当だとして、XさんがY社に対してチェック・オフによる損害賠償を請求した事例。
- チェック・オフ協定の締結は法24条違反の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎないものであって、それが労働協約の形式により締結された場合であっても、当然に使用者がチェック・オフをする権限を取得するものでないことはもとより、組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではないと解すべきである
- 使用者が有効なチェック・オフを行うためには、右協定の外に、使用者が個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要であって、右委任が存しないときには、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフをすることはできないものと解するのが相当である
チェック・オフって聞きなれない言葉ですね。
会社が給与から労働組合費を控除して労働組合に渡すことです。
判決を読んでどう思いました?
まぁ、常識的に考えると、そうだろうなぁというような内容ですよね。
もし、判決に納得はしたものの、色々と疑問が湧いた方!
労働基準法を深く勉強してますね!
そこで、より深い理解の為に、この判例で”法的に”問題になりそうな点を詳しく解説していきます。
賃金から控除というのは何もなければ賃金全額払いの原則に違反します。
法律の世界では原則があれば例外があります。(これはリーガルマインドとして重要)
賃金全額払い原則の例外は?
そうですね、法令によるものか「労使協定」による場合ですね。
今回のケースではXさんが元々所属していた組合(以後「元組合」)とY社がチェック・オフに係る協定を締結していたわけです。
判旨の「労働協約の形式により締結された場合」から元組合は過半数労働組合と推測できますね。
つまり、この協定は労働協約とも言えるとなります。
Y社が行っていたチェック・オフはこの労使協定に基づくものですから、賃金全額払いの原則には反しないとなります。
そこで問われるのは、労働協約の性質がどのようなものかという点となります。
特に今回は個人の意向が労働協約に反しているケースですから、会社全体に効力のある労働協約と労働者個人の労働契約との関係性が問われることとなります。
労働協約と労働契約の関係性は「労働組合法16条」で
「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。」
と、されており、労働協約の優位性を示しています。
この点から考えるとY社が元組合と締結していた労働協約によるチェック・オフはXさんの意向より優位となります。
ですが、判決では賃金全額払い原則の例外としての労使協定がある場合(このケースでのチェック・オフ協定)は「罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎないもの」つまりは免罪符的な意味合いであって会社がその「権限」を有する訳でも労働者が「義務」を負うわけではないという事を示したわけです。
更に、有効なチェック・オフを行う条件として、チェック・オフを行う労働者から「賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けること」が必要であるとしてました。
この様に当たり前で片付けたくなるような事例でも裁判では法理に基づいた判断が必要になります。
その点から言ってもすごく重要な判例だと思います。